
世界的にもデジタル化が進んでおり、企業・地方自治体・個人でも、多言語サービスへのニーズが高まっているのは言うまでもありません。近年ではAIの一般化とともに、多言語機能を持つ自動ツールなどの各種サービスも充実してきています。このトレンドの流れに乗って、ソーシャルメディアも多言語化して世界に発信する時代は、すぐ目前に迫っています。
2023年、世界中でソーシャルメディアを利用しているユーザーは、49億人を突破しました。今後、さらに拡大を続けるSNS市場は、2027年には58億5000万人に達すると予想されています。企業が多言語でソーシャルメディアを運用できると、国内市場とは比べものにならないほど膨大な顧客へとリーチできる可能性があります。
しかし、SNSマーケティングは既に世界中の多くの企業が取り組む施策であり、既にレッド―オーシャンです。何も戦略を持たずに乗り込んでは、成功できるハズはありません。そこで今回は、自社に最適な多言語SNS戦略を組み立て、成功に導くための10のポイントをご紹介していきます。
目次
SNS「対応言語」に関する統計データ
世界的にも多くのユーザー数を獲得しているSNSプラットフォームは多くの言語で利用できるようさまざまな機能を実装しています。
Facebook
2004年にハーバード大学で創立されたFacebookは、オンラインで家族や友人と簡単に繋がり、さまざまなコンテンツを共有できるソーシャルネットワークサイトの1つです。現在、世界中のFacebook関連ユーザー数は29.6億人に達しており、創業から19年経った今でもユーザーは増加傾向にあります。約50%のFacebookユーザーが英語以外の言語を使しており、Facebookで最も多く使われている言語は英語、スペイン語、ポルトガル語、インドネシア語、フランス語です。現在、Facebookでは112言語で利用できるほか、自動翻訳機能なども備えており、言語機能も充実しています。

また、Meta広告を利用する場合、1つの広告キャンペーンを複数の言語で掲載することが可能です。自動翻訳を利用できる広告配置は、すべての広告配置や言語で利用できるわけではありませんが、戦略的に使うことで多言語でFacebook広告の運用ができる優れた機能を実装しています。
利用可否はこちらから確認が可能です。
Instagram
Instagramは、AndroidとiPhoneで利用できる、画像・動画共有モバイルアプリです。現在のユーザー数は2023年13億人ほどで、2025年までに14億人に達すると予測されています。(Statista)InstagramはFacebookと比較すると、若者層からの支持が厚く、盤石な地位を確立しています。画像中心の視認性の高いInstagramの普及によって、ブランディングとデジタル広告に革命をもたらしたと言われています。Instagramは36言語対応可能で、2017年には、右から左に読む言語「アラブ語」「ペルシャ語」「ヘブライ語」も追加されています。
Twitter
Twitterは、ツイートと呼ばれる280文字以内の短いテキストと画像、GIF、動画などを投稿することができるミニブログサービスです。2006年に誕生したTwitterは、創業当初は140文字でしたが、2017年までには280文字まで増加し、2022年にはツイートの編集、アカウント認証などが受けられるサブスクリプションサービスであるTwitter Blueなどが誕生しました。Twitterの月間アクティブユーザーは4億人を突破し、収益化能なデイリーアクティブユーザー(mDAU)は2億3780万人に達しています。また、25歳~34歳の間で人気があり、世界ユーザーの38.5%をこの層が占めています。言語は、40言語以上応可能です。
LinkedIn
「LindedIn」は、アメリカ発のビジネスに特化したソーシャル・ネットワーク・サービスの一つで、世界最大のプロフェッショナルネットワークサービスです。世界中のビジネスに関心が高い人たちが各業界の専門家と繋がる重要なソーシャルネットワークとして、既に多くの国で浸透しており、2023年6月現在、ユーザー数は9億3000万人を突破、200の国と地域、26言語に対応しています。ユーザーの79.5%が18歳~34歳が占めています。
Pinterest
2009年に米国でスタートした、Pintersetも世界で人気のソーシャルメディアの1つです。日本市場での月間アクティブユーザーは870万人程度ですが、世界に目を向けてみると、月間アクティブユーザーは4.5億人(2022年Q4時点)を超え、その数は今でも急速に増え続けている人気のソーシャルメディアです。主に画像や動画等のコンテンツを検索する「ビジュアル検索プラットフォーム」で、ユーザーはお気に入りのコンテンツを見つけると「Pin」として自分の掲示板に保存する(貼り付ける)ことができます。また、他ユーザーの掲示板をフォローすることもでき、フォローを通じて他ユーザーと交流できるようになっています。
言語は31言語以上対応しています。
YouTube
2005年に設立されたYouTubeは、オンライン動画を誰でも簡単に無料で視聴できる動画共有サイトです。自ら独自に動画を作成し、投稿することができるYouTubeは、海外に自社をアプローチできる優れたマーケティングツールでもあります。YouTubeはGoogleの次に大きな検索エンジンであり、月間アクティブユーザーは25億人を突破しています。YouTubeは91か国の、80言語対応しています。
現在、YouTubeではクリエイター向けに、コンテンツを自動で多言語化できる「多言語オーディオ機能」を、一部のクリエイターやインドの医療提供者や病院などと共にテスト運用中です。今後、数か月以内には自動多言語オーディオ翻訳機能が実装されると見られており、広告を出稿したい広告主にとって、単一チャンネルで視聴者とエンゲージメントを劇的に増加させる可能性があるため、インフォキュービック・ジャパンでも注視している機能です。
多言語SNSで重要な「ローカライズ」

各媒体も多言語対応に取り組んでおり、今まで以上に世界の人々に発信できるようになってきました。しかし、やはり「単に言語を変換して投稿する」だけでは、望む結果を得ることは難しいかもしれません。
CSA Researchの調査結果レポート「Can’t Read, Won’t Buy(読めない買わない)」では、海外顧客の75%は「自分の言語で行われているサービスの場合、同じブランドを再購入する可能性が高く、自国語でのカスタマーケアを望む」と考えているようです。さらに、65%のユーザーは「母国語でのコンテンツを好み」、73%は「母国語での製品レビューを望んでいる」との調査結果を報告しています。また、Harvard Business Review によると、「消費者の50%以上は母国語であれば、よりお金を払っても構わない」と、回答していることがわかりました。
この調査結果からわかるように、単に「コンテンツが翻訳されていれば良い」というわけではなく、現地で日常的に使用されている「母国語にローカライズする」ということが重要でることを理解する必要があります。
ユーザーが普段日常で使用している言語を表示し、国や地域に応じたコンテンツを提供することによって、他社よりも”優位な立場”に置き、更にユニーク且つパーソナライズ化された体験をユーザーに提供することができるでしょう。
〈In Britain we process happiness… differently, Bill Bailey – BBC」…オーストラリアに長年いた著者にとって、オーストラリアの表現に爆笑してしまいましたが、これは的確!〉
↑↑ こちらの動画のように、「挨拶」だけ切り取ってみても、同じ英語圏でも国によって返答が驚くほど異なります。歴史的価値観、気候、風土などによって、全く異なる「ことば」を生み出すという好例です。
多言語SNS戦略を成功に導く、10のポイント

先述したようにFacebookやInstagram、YouTubeなど多くのSNSプラットフォームは、すでにさまざまな多言語機能を実装しています。しかし、やはり海外向けに「企業として」SNSアカウントを運用する場合、ソーシャルメディアに実装されている機能で翻訳しておけばOKというだけでは、はやり「ユーザー⇔企業」信頼関係の構築は難しいと言えるでしょう。
ここでは、長年お客様の運用代行を行ってきたインフォキュービック・ジャパンが考えるベストプラクティスをご紹介します。
ユーザーを知る
潜在顧客からターゲットとするユーザーを可能な限り絞り込みましょう。潜在顧客がどこにいるかをツールなどを利用して可能な限り、明確にしましょう。ユーザーをより深く理解するために情報収集を行います。行動・知識・習慣・文化・好みなどを細かく分析していきます。
新しい市場で出来るだけ幅広い視聴者を獲得するために、各地域の対象ユーザーへの理解を深め、ユーザーのここに響く方法で対話することへ役立てます。
ユーザー調査には、いくつかの方法がありますが、どのような方法であっても下記の情報を含めておきましょう。
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- 年齢・性別・収入・教育レベルなどの標準的な人口統計
- 趣味・興味
- 注意すべき文化の違い
- ハイテキスト文化・ローコンテンキスト文化(英・米・独は全てを詳しく説明し、シンプルが好まれます)
- ニュアンス、慣用句、ユーモアの特徴
- 検索方法
- その国の代表的な購買行動(BtoB/BtoC)
適切なプラットフォームを選択する
「ユーザー数が多いから、Facebook」
「自社ビジネスはBtoCだからInstagram」
世界中で年々増え続けるSNSは、見極めが重要です。数あるSNSのなかで、自社ビジネスの目的にマッチする媒体を選択することは、複数の言語や国でSNS運用を行う場合は、より時間をかけて各プラットフォームを調査が必要です。国や地域によっては禁止されていたり、自社のゴール設定によっても最適なプラットフォームは異なります。事業部として情報が発信したいのか、ホールディングスとしての情報発信でも異なってきます。
投稿方法を決める
多言語でSNSを運用するためには、いくつかの異なる選択肢があります。自社の目標などによっても異なるため、自社に最適なものを選択しましょう。
①言語ごとに別アカウントを運用
これは多言語運用の場合、最善の選択肢と言えるでしょう。ターゲットを絞り、対象となる国や地域に合ったタイミングで投稿できるため、魅力的で地域に根差したコミュニティ作りに最も近づける方法と言えるでしょう。ただ、アカウント数が増えるため管理が大変なのは言うまでもありません。
近年、世界中で急速に人気を高めてきた仮想通過取引所の「Binance」は、同じ英語圏であってもアメリカ向け、イギリス向けのアカウントは別のものを使用し、スペイン語圏内のラテンアメリカであっても国ごとにアカウントを分け、異なる運用を実施しています。
②1つのアカウントで複数の翻訳を含める
この運用方法の場合、別のアカウントを作る必要がなく、全てのフォロワーに対して1つの投稿で済むため、手間もかからず管理も簡単です。ただ、どの国や地域・文化圏の人に対しても同じクリエイティブでの訴求になるため、全てのユーザーに対しての関連性は低くなってしまいます。

<参照先:justinpjtrudeau>
カナダのように、公用語が「英語」と「フランス語」の地域では2つの言語を使った投稿が多い傾向です。このように同じ内容の投稿でもコンテンツの言語を複数用意することでバイリンガルスピーカーのユーザーにもアプローチしやすくなります。
③ 1つのアカウントで異なる言語で投稿する
この運用方法の場合、別のアカウントを作る必要がないため、少人数で運用を行う場合などに選択肢として挙がってきます。1つのアカウントで異なる言語を投稿する場合、同じコンテンツを言語だけ変更して投稿してはいけません。ユーザーのニュースフィードに同じ内容の投稿が複数表示されてしまうため、フォローを外されてしまったりと、ユーザーとの親密な関係を構築することは難しいでしょう。

<参照先:montreal>
この手法は「ビジュアルを重視したもの」「情報提供型のコンテンツ」に有効です。
事例に挙がっている、Tourisme Montrealの投稿はスラッシュ(/)を使って、「英語」と「フランス語」の2言語で投稿しています。
翻訳はプロと協力する
「AI時代、翻訳なんて機会で大丈夫!」という時代に近づきつつあることは間違えありません。しかし、優秀な翻訳機が開発されているとは言え、人間が作る文章やコンテンツのレベルにはまだまだ勝ち目はありません。
言語のニュアンス、文化的言い回し、ユーモアは国や地域によって大きく異なります。
以前、Amazonの翻訳機能のアルゴリズムの不具合によりヒンディー語のウェブサイトが完全に理解不能なものになった事や、世界でも有名な中華系銀行HSBCでは、翻訳機能を使ったが故に、肝心なスローガンの誤訳が原因で1000万ドルの損失を被ることになったという事もありました。
翻訳機能は素晴らしい発明ですが、決して100%頼ってはいけないという事を忘れてはいけません。
誤訳の損失と同じく、低品質な翻訳をコンテンツとして出すのは、ユーザーに対しても失礼です。納品物は必ず現地語を話す方に、ダブルチェックしてもらうことをおススメします。
「新語・造語」生成には要注意
新商品の発売や新規のキャンペーンがスタートすると、ユーザーの心に刺さりそうなキャッチコピーを考案したり、商品やサービス名などを開発したりする場面もあるかと思います。しかし、その商品やサービスを海外に展開させるときは要注意です。
現地では無礼に当たる言葉や悪い表現を無意識に使用してしまっているかもしれません。複数で確認するなど、アイデア出しあう時点で現地の価値観・文化を理解した人やネイティブに確認を行いましょう。
コンテンツは必ず、ローカライズする
企業としてSNSアカウントを運用する場合、メッセージは一貫したメッセージを発する必要があります。多言語でSNS投稿文を作成する場合、単に原文を直訳するだけでは十分でありません。先述したように、現地の言葉でローカライズされていると、投稿者が海外企業であったとしても、ユーザーはその企業に対して親近感や信頼感を抱きやすくなります。
高品質のビジュアル
ビジュアルの質を高めること自体は言うまでもありませんがそれ以上に、発信先や訴求先の国の文化的背景を理解することがとても大切です。イスラム教が多い国では、今でも「飲酒」「キスシーン」「露出」をタブーとしていることが多いです。また、OKサインひとつでも表現の仕方が様々です。ビジュアルの質のみならず「文化的に何がタブーなのか」などの情報を調査し、考慮しながらコンテンツ制作や企画に挑みましょう。
バイリンガル対応のユーザーに向けて複数の言語を活用

Facebookで行われた調査では、アメリカで比較的使われていることが多い「スパングリッシュ」(スペイン語と英語をミックス)など、工夫を凝らしたコンテンツやキャッチコピーはよりターゲットユーザーの心をつかみやすいという結果も出ています。ただ、これはかなり上級者向けになりますので、運用チーム内にバイリンガル対応可能なネイティブスピーカーがいた場合は、是非挑戦してみてはいかがでしょうか?
SNS機能やツールを活用する
多言語に展開しやすいようにSNS上では翻訳機能に代わるツールや機能を備えています。ターゲティングも言語で設定することが可能なので、どんどん活用しましょう。
外部ツールなどを活用して、インターネット上に落ちているユーザーの生の声を知ることで、マーケティングの改善点や成功するためのポイントなどが見えてきます。ブランドの認知状況や商品者の満足度などをより正確に知ることで、適切なマーケティング戦略が立てやすくなるのです。
国や地域に合わせた、ハッシュタグ戦略・キーワード戦略
SNSマーケティングに取り組むにあたり、欠かせない戦略の1つがハッシュタグやキーワード戦略です。
人気のあるハッシュタグやキーワードは言語によって異なります。ハッシュタグをうまく活用すれば、有力なインサイトが発見できたり、フォロワー数の増加、アカウントへの流入数の向上も期待することができます。また、独自のハッシュタグを生成し、新規キャンペーンに活用して、ユーザーの心に運よく刺されば、思わぬ大反響に繋がる!そんな無限の可能性も秘めています。
さいごに
英語、スペイン語、中国語など複数言語に対応しているウェブサイトが多くなっているのと同様に、海外向けのSNSであっても複数言語対応がスタンダードになりつつあります。より多くのユーザーにリーチし、良好な関係を構築するには、長期的なSNS戦略が必要となります。
情報が溢れる現代において、海外ユーザーの心を惹きつけるSNSマーケティングをお考えでしたら、ぜひお気軽にご相談下さい。お客様ごとに異なるご状況・課題に合わせて最適な戦略をご提案いたします!
吉田 真帆 マーケティング部 プランナー
コンテンツ・SNS・メールマーケティングを統括。オーストラリアの永住権を取得したにも関わらず、思いもよらず日本に帰国。日本8年を経て、現在はシンガポールからフルリモート3年目。