AI時代におけるB2Bビジネスの信頼構築
~持続的な成長を実現するための戦略設計~

ChatGPT、Claude、Gemini、Perplexity AI、GitHub Copilotなど、AIを使わない日はありません。AIは、マーケティングにおけるコンテンツ制作・分析・顧客コミュニケーションの効率を飛躍的に高めました。
一方で、AIがコンテンツ制作のハードルを劇的に下げたことで、ネット上には類似した大量の情報が溢れ、「その情報は本当に信頼できるのか?」「この対応はボットか?」という”懐疑心”も同時に高まっています。
現在のB2B市場において、「信頼」は成長のための基盤であり、究極の差別化要因です。むしろAI時代のビジネス戦略においては、信頼構築こそが最も難易度が高く、かつ競争優位を左右する要素になっています。
本記事では、AIの普及によってB2Bにおける情報収集と意思決定のプロセスがどのように変化したのかを整理したうえで、なぜ今「信頼のギャップ」が生まれているのか、そしてAI時代において企業はどのように信頼を再構築すべきかを解説します。
目 次
AI効率化がなぜ、信頼を壊しているか
生成AIの登場により、企業はかつてない速度でコミュニケーションを拡大し、コンテンツの量産や顧客対応の自動化など、業務効率を飛躍的に高めてきました。
本来、こうした効率化そのものは、企業活動にとって大きな前進です。
しかし、現在のB2B市場では、「効率化の進展」と「信頼の低下」が同時に起きるという、逆説的な状況が生まれています。
その背景には、企業と買い手のあいだで、情報を受け取る際の前提条件が大きくズレ始めているという構造的な変化があります。
・AIが引き起こす「価値の希薄化」
効率化を重視する世界中の多くの企業が、AIをコンテンツ戦略に導入しています。
Informa Tech「Trust in Marketing Index」の調査レポートによると、B2Bマーケティングチームの81%が、すでに生成AIを活用しています。一方で、同調査では、B2Bマーケティングの見込み客の約7割が、連絡先情報を提供して受け取ったコンテンツに対して「しばしば/ときどき失望している」と回答しています。
これは、企業側が「十分な情報量を提供している」と感じている一方で、買い手側は「どれも似たような内容で、判断材料にならない」と感じていることを示しています。
量産された情報は、必ずしも価値の蓄積にはつながらず、結果として信頼の低下を招いているのです。

・買い手の前提が変わった――「疑う」ことが意思決定の出発点に
さらに重要なのは、買い手の意識そのものが変化している点です。
現在の買い手は、自分が目にする情報の多くが、AIによって生成されている可能性を前提として受け取っています。
その結果、
「この情報は本当に正しいのか?」
「誰が責任を持って発信しているのか?」
といった疑念が、意思決定の“途中”ではなく、“出発点”になりつつあります。
実際、「The 2024 Edelman Trust Barometer ― Technology & AI Deep Dive」のレポートによると、2019年以降 AI企業への信頼は明らかに低下しています。
世界24カ国を対象とした調査では、AI企業を信頼していると回答した人の割合は、2019年の 62% から 2024年には 54% にまで低下しました。米国ではこの傾向がさらに顕著で、同期間にAI企業への信頼は 50% から 35% へと 15ポイントも低下しており、AIに対して明らかに不信感を抱く状態へと陥っています。

企業が発信する情報量が爆発的に増えた結果、買い手は一つひとつの情報に対して、より厳しい視線で信頼性を見極めるようになっています。
B2Bビジネスに広がるAI主導の意思決定
現在のB2B市場では、企業選定や比較検討の初期段階において、人間よりも先にAIが情報を収集・整理し、評価の土台をつくるという意思決定構造が広がっています。
従来のB2B意思決定プロセス
以前のB2Bビジネスにおける情報収集や比較検討は、人間がインターネットを調査し、資料を読み込み、レポートを作成したうえで行われていました。企業の信頼性は、その過程でウェブサイトの見栄え、雰囲気、担当者の説明や姿勢、実績などを通じて評価されていました。
人間がインターネットを調査
人間が情報を取捨選択
人間がレポートを作成
人間が判断
そのため、次のような「人間ならではの判断基準」が、初期タッチポイントにおける信頼形成に大きく影響していました。
- 文脈を読む
- 行間を読む
- 雰囲気を感じる
- 誠実さをくみ取る
- 多少の曖昧さを許容する
しかし、こうした人間ならではの判断基準は、AIによる情報収集・評価プロセスでは扱うことができません。
AIが“事前評価”する構造への転換
現在では、その役割の多くをAIが担うようになっています。
AIはインターネット上の膨大な情報を横断的に収集・要約し、比較レポートを自動的に生成します。人間は、すでにAIによって整理された情報を前提に意思決定を行うようになりました。
- AI がインターネットを横断的に調査
- AI が情報を要約・比較
人間または、AI がレポートを生成
人間がそのレポートをもとに判断
このように、AIが人間より先に企業を評価する“事前判断レイヤー”になりました。加えてAIは、次のような基準で情報を評価します。
- 書かれていることしか評価しない
- 明文化されていない前提を理解できない
- 一貫性がない情報を信用しない
- 構造化されていない情報を拾えない
初期タッチポイントにおいて、AIは、Webサイトの見栄え、デザイン、雰囲気、誠実さ、行間といった人間的な要素を評価しません。これは、そうした要素が明文化・比較・検証できないためです。
その代わりAIは、①明文化された判断基準、②一貫性のある情報、③説明可能なロジックなどといった、機械的に比較可能な要素をもとに企業を評価します。
では、AIにどう信頼される企業になるのか、人間とAIの両方から信頼されるには何が必要なのでしょうか?
AIと人間の両方から信頼されるための4つの戦略

ここからは、AI時代のB2Bビジネスにおいて、信頼を再構築するための具体的な戦略を見ていきます。
戦略1:AI時代に機能する「一次情報」を設計する
AI時代のB2Bにおいて、信頼の起点になるのは、企業が語るメッセージではなく、顧客自身の体験に基づいた一次情報を、どれだけ意図的に設計・蓄積できているかです。
洗練された企業メッセージは差別化しづらい一方で、顧客の言葉による体験談や現場の声は、AIにとっても引用・比較しやすく、人間にとっても信頼判断の材料として強く機能します。
。たとえば、次のような情報です。
- 業界イベントや現場で、顧客自身が語る短い動画メッセージ
- CS部門が把握している、実利用に基づく率直なフィードバック
- 過度な編集を行っていない、顧客の実体験に基づくコメント
重要なのは、これらを「たまたま集まった声」として扱うのではなく、AIと人間の両方が参照できる信頼情報として、意図的に設計・公開していくことです。
完成された成功事例よりも、顧客自身の言葉による一次情報の蓄積こそが、AI時代のB2Bにおける最初の信頼をつくります。
戦略2:バイヤージャーニー全体で信頼を”積み上げる”
AIが情報の比較・要約を担う現在、B2Bにおける信頼は、単発の強いコンテンツによって生まれるものではありません。
AIは、検討プロセス全体を通じて提示される情報の一貫性や連続性をもとに、企業を「信頼できるかどうか」判断します。
そのため、特に検討の中期〜後期フェーズにおいて、説明可能な信頼材料を段階的に積み上げていくことが重要になります。
- 初期:課題理解を示す教育的コンテンツ
- 中期:ケーススタディ・第三者評価
- 後期:ROI・導入詳細・実績
- 販売後:継続的価値提供とファン化
各フェーズで役割の異なる「安心材料」を継続的に提示することで、人間の意思決定者だけでなく、AIに対しても「一貫して説明可能な企業」であることを示すことができます。
戦略3:AIに評価される情報設計
AIは、人間のように雰囲気や誠実さを感じ取ることはできません。AIが企業を評価する際に参照するのは、「明文化され、整合性が取れた情報」だけです。
そのため、AIに信頼される企業になるためには、情報を単に発信するのではなく、「評価される前提」で設計する必要があります。
近年注目されているGEO(Generative Engine Optimization)は、AIに引用されやすくするための手法の一つですが、GEOはあくまで“結果を最大化するための技術要素”にすぎません。
本質的に重要なのは、
- 企業の判断基準が明確であること
- 情報に一貫性があること
- 主張と根拠が説明可能な構造になっていること
です。これらが担保されて初めて、AIは企業を「信頼できる情報源」として認識し、GEOの効果も機能するようになります。
戦略4:信頼を失わないための「構造化」の徹底
戦略3で、AIに評価される前提で情報を設計したとしても、それが構造化されていなければ、AIに正しく理解・比較されることはありません。
信頼を失わずに評価されるためには、情報の中身だけでなく、その「構造」まで含めて整える必要があります。
AIは情報が整理されずに提示されている場合、内容が正しくても「信頼できない情報」と判断される可能性があります。そこで有効なのが、以下のような構造化されたコンテンツです。
- 構造化データ
- FAQ形式の活用
- 箇条書きによる主張と要点の分離
- 出典・根拠・実績の明示
こうして構造化された情報は、単なる企業の主張は一方的なメッセージではなく、AIと人間の双方が検証できる、再現性のある「信頼情報」として評価されるようになります。
日本よりも“シビア”な海外B2B市場の信頼構築

日本では、企業名や実績、ブランド力によって、一定の信頼が事前に担保されやすい傾向があります。一方、海外B2B市場では、ブランドよりも「検証可能な証拠」そのものが信頼を形成するという考え方が強くなります。
海外B2Bでは、意思決定が個人ではなく組織として行われるため、「誰が見ても説明できるか」「第三者に検証されても耐えられるか」が、信頼の前提条件になるのです。
特に重要なのは、以下の3点です。
海外で主流の「実名・実証」ベースの信頼
海外市場では、企業の主張そのものよりも、第三者による検証可能な証拠が信頼を形成します。そのため、次の要素が極めて重要になります。
- 顧客名の明記(ロゴ掲載)
- 実在人物の証言(例:LinkedInプロフィール付き)
- 数値・ROI・KPI
- 第三者メディア・調査機関の引用
日本でよく見られる「抽象的な成功事例」や「ぼかした表現」は、海外では「検証できない情報」と受け取られ、信頼につながりにくい傾向があります。
AI利用の透明性がブランド評価を左右する
特にEUや北米では、「AIが制作したのか」「AIが回答しているのか」「どこまで人間が関与しているのか」といったAI利用の透明性が、倫理・規制・ブランド評価の観点から重視されています。
重要なのは、「AIを使っているかどうか」ではなく、「どのように使い、どこで人が責任を持っているのか」を説明できるかどうかです。
実際、米国では「人間だと誤解され得るAIチャットボットとの商取引において、AIであることを通知しない行為は不公正・欺瞞的になり得る」とする法案が、一部の州や連邦レベルで提出されています。
出典:Mayer Brown:「Identify Yourself: State Bills Would Require Notification When Interacting with AI」
長期・多層化する意思決定プロセスへの備え
海外のB2Bビジネスの場合
- 意思決定者が複数存在する
- 法務・IT・財務などのチェックが必須
- RFP(提案依頼書)文化が一般的
といった背景から、日本以上に証拠と説明責任が求められます。
そのため、カスタマージャーニーの中期〜後期フェーズにおける「信頼コンテンツ」の比重は非常に高くなります。AI時代の海外B2Bでは、「説明できるマーケティング」そのものが信頼の条件となっているのです。
まとめ:AI時代、信頼は“自然に生まれない”
AIの進化によって、B2Bビジネスにおける情報流通と意思決定の構造は大きく変わりました。AIが情報を収集・整理し、人間がその結果をもとに判断する――この変化は、特に海外B2B市場において顕著です。
日本企業が従来大切にしてきた「丁寧さ」「誠実さ」「空気を読む対応」は、言語化・構造化されなければ、信頼として認識されにくい状況が生まれています。
自然に生まれる信頼に期待する時代は終わり、いま求められているのは、信頼をマーケティングと事業の両面で意図的に設計し、継続的に示し続ける戦略です。
それこそが、AI時代のB2B成長戦略の本質と言えるのではないでしょうか。

吉田 真帆 マーケティング部 プランナー
iCJの自社マーケティングを担当。オーストラリアの永住権を取得したにも関わらず、思いもよらず日本に帰国。 オーストラリア→カンボジア→日本→シンガポール→2025年末~日本

